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広島高等裁判所 昭和55年(う)4号 判決

主文

本件控訴を棄却する

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山田慶昭及び被告人の作成にかかる各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

各論旨は、いずれも要するに、原判決の量刑不当を主張するものである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、本件は被告人が、原判示第一の日時場所において、戸張良雄所有の普通乗用自動車一台を同人の意に反し数時間に亘つて勝手に乗り廻す意図で窃取したうえ、同第二の日時場所において右自動車の無免許運転を行つた、という事案であつて、被告人は昭和五四年一〇月三〇日広島地方裁判所において、カメラなどの窃盗と二回に亘る自動車の無免許運転等の罪により懲役一〇月、二年間刑の執行猶予の判決を受け、折角更生の機会を与えられたにも拘らず、その行状を慎しむところがなく、右判決の宣告後一旦は両親(実父、義母)の許に戻つたものの、間もなく家出し、爾来、駅の待合室などで寝泊りし、知り合つた労務者から小遣い銭を貰うなどして、無為徒食の生活を送るうち、本件各犯行に及んだものである。このような本件各犯行の性質、動機、態様、結果のほか、被告人の経歴、前科及び当時の生活態度等を総合考察するときは、被告人の刑責はたやすく軽視することができず、被告人においては本件自動車を数時間後には元の場所に返しておくつもりであつたことその他被告人の境遇、家庭の情況、現在の心境など所論指摘の諸点を被告人のため十分利益に斟酌してみても、被告人を懲役一〇月に処した原判決の科刑はまことにやむを得ないところであつて、重きに失し不当であるとまでは認められない。各論旨は理由がない。

なお、記録によれば、原審は、第一回公判期日において、窃盗の事実につき、当該被害者の供述等の重要証拠を取り調べる前に、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書(いずれも自白を内容とするもの)を取り調べていることが認められ、この措置が刑事訴訟法三〇一条に違反するものであることは否めないが、被告人が自ら右公判期日において公訴事実は全部間違いない旨陳述している本件に関する限り、原審の右手続違反をもつて判決に影響を及ぼすことが明らかなものということはできない。

よつて、刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入し、当審における訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書によりその全部を被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

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